社内外での評判が高まってきますと、知らず知らずのうちにのぼせ上がってくるのは人間の性。自分では気をつけていても、自分を制御できないと「裸の王様」になってしまいます。まだ私は「裸」にはなっていなかったと思いますが、「薄着」になりかけていたそんなある日のことでした。
アメリカから本社の執行役員クラスの人が日本に来ますと、自分の部下たちを中心にいろいろなミーティングを行います。私と面識がない人でも、私のことを知ってくれている人は、私に面会を求めてきます。それは自分の部下であるGEの幹部たちを、私が教えているからです。私の研修の参加者である部下たちは、研修での学びなどを上司に報告しますので、私の噂や評判が伝わっているのでしょう。
私はそうした人との面会の場として、本社ビル内にある研修センターを指定します。研修センターに入りますと、入り口からの通路に面した壁一面にさまざまなリーダーシップ研修のクラス集合写真が飾られています。アメリカからやってきた幹部はその写真の前で足を止め、自分の部下が参加した集合写真をじっと見つめます。そして自分の部下を指さして、個別に研修での様子を尋ねてきます。
ある幹部とミーティングをするために研修センターに入りましたら、「ここは君の城だな」と言われました。その幹部は何の悪気もなく、いい意味で「城」と言ってくれたのだと思いますが、私はそのミーティングの後も、ずっとその「城」という言葉が引っかかっていました。
このままずっと一国一城の主として留まるのか、それとも当初のキャリアゴールである独立したコンサルタントになるのか。今思い返せば、当日の私は城の居心地の良さによって、独立するという目標がベールに覆われつつあったと思います。その幹部の何気ない一言は、私のキャリアゴールは何だったのかという意識を呼び覚ましてくれました。(続く)