私の友人で、個人事業主として研修講師業をしているA氏から、つい最近聞いた話です。A氏が独立前から付き合いがあった研修ベンダーX社が、A氏の営業代理店をさせてほしいということで、数社の研修を実施しました。しかしそのX社は、営業活動や研修運営についての品質が低く、また単に営利活動として研修を生業としていることが嫌になり、A氏はX社との付き合いをやめることにしました。
私もこの業界には長くいますので、そのX社のことは知っていました。会社で人材開発の実務をしていたときには、その会社の社長から売り込みを受けたこともあります。とても穏やかで物腰の柔らかい好人物という印象しかありませんでした。
もともとA氏とX社の社長とは長年の付き合いがあったので、研修の業務委託を受けるにあたって契約書や覚え書きを交わさないまま仕事をしていました。不安になったA氏は、覚え書きでもよいから文書で発注してほしいとメールで依頼したそうです。
しかしX社からは何の返事もなく、そのままとなりました。したがって付き合いをやめようと考えても、そもそも破棄すべき契約書もないわけです。A氏からX社に送られた、仕事上のお付き合いを辞退するメールは、私も見せてもらいましたがとても丁寧な内容で相手を傷つけまいとする心配りが感じられます。
しかしそこから大変なことが始まりました。詳しいことはここでは書けませんが、まったくもって常軌を逸しているとしか言いようがありません。私はA氏に対して同情しつつも、彼の話を最初は信じることができませんでした。あの温厚な印象の社長が、本当にそんなことをするのだろうかと。
そこで私は「ルシファー効果」の話をA氏にしました。彼の抱える会社の「状況」が、あの「天使」のような、とは見た目から言えませんが(笑)、温厚な社長を「悪魔」に変えてしまったのではないだろうかとA氏は言います。
人は皆、天使と悪魔の両側面を持っているとは思いますが、通常は理性で悪魔を押さえ込んでいます。しかしX社の社長は違いました。悪魔としての本性をむき出しにしてビジネス・パートナーに卑劣な手段を講じて襲いかかるような人物が、毎日のように著名な企業に出入りし、またその会社の社員を集めた研修の場において講師を務めているのかと思うと、想像しただけで背筋が寒くなります。しかもそのときは天使のようなほほ笑みで本性を隠しているわけです。
私もその社長と同じような仕事をしていますが、幸い私は彼のように従業員を雇ったり、研修スペース付きの大きなオフィスを構えたりしていませんし、私を本当に必要としているクライアントとしかお付き合いしませんから、彼ほどにお金を稼ぐというプレッシャーが大きくありません。
お金、地位、名誉、権力。。。きれい事を言うわけではありませんが、こうしたものはどこかの都知事のように、自分の中に潜んでいる悪魔を覚醒させてしまうのかもしれません。
「貧すれば鈍する」と言います。窮地に立たされたときにその人の人間性が試されることを、私自身肝に銘じたいと思ったお話でした。