研修前に、さまざまな事前課題を設定することがあります。その事前課題に対する取り組みと姿勢と成果(課題の出来具合)は、研修中のパフォーマンスと大いに相関関係があると見ています。
事前課題に対する参加者の回答は、研修開催までに事務局を通じて私に送られてきます。いい加減に手を抜いて取り組んだものと、熱心に取り組んだものとでは、歴然とした差が見られます。その出来具合をABCで評価すると、やはり黄金の比率通りで2:6:2になります。研修が始まるときには、誰のレポートが優れていたなどの記憶は消すようにしています。レポートの出来不出来を記憶したまま研修に臨みますと、どうしても本人に対するバイアスがかかってしまい、研修中のパフォーマンス評価に偏りができてしまうからです。
研修が始まって、「おっ、この人なかなか良いな」と思ったら、事前課題に対する評価をチェックしてみます。その逆のこともあります。ぼーっとしていたり、居眠りしていたりする人についても、事前課題の評価をチェックします。事前課題の回答についての評価が上位2割の人と、下位2割の人たちは、研修でのパフォーマンスもほとんどの場合、そのまま上位2割と下位2割に位置づけられます。これは当然と言えば当然のことかもしれません。しかし研修参加者の個々人に対するアセスメントをクライアントから依頼された場合、この相関関係はとても役に立ちます。
30人くらいの参加者に対する個別レポートを作成するわけですので、研修中や休憩時間、食事中、懇親会などでの様子をずっと観察しています。個別のアセスメントを行うという前提がある場合は、事前課題の評価を元にして観察したほうが効率は上がります。ただし前述したように、バイアスの問題がリスクとして生じます。ですので、事前課題の評価をベースにして観察をするのは、下位2割の人に対してのみ行うようにします。その理由は、事前課題の評価が低い人はほぼ間違いなく、研修中のパフォーマンス評価も低くなるからです。
一方、事前課題の評価が高いのに、研修中のパフォーマンス評価がそれほどでもないというケースはたまにあります。事前課題では、深い思考や洞察などを発揮しても、研修ではほとんど発言せず、存在として目立たないといったケースで、いわゆる内向型のタイプに多く見られます。このタイプの人に対して、事前課題による高い期待を先入観として持ってしまうと、研修のパフォーマンスとのギャップが大きくなってしまい、正当な評価ができなくなる可能性があります。
事前課題は、その目的によってさまざまな設定が可能ですが、何を目的として事前課題を設定しているのか理解に苦しむケースも散見されます。事前課題によって研修のパフォーマンスを上げるということも可能です。両者の相関関係を今一度見直してみてはいかがでしょうか。