企業の経営幹部やその候補者を対象とした研修で、幹部リーダーに求められることは何かという問いを発します。もちろんその答えは山ほどあると思いますが、リーダーシップという観点から「K」(カ行)で始まる言葉を4つに絞って考えてもらいます。その答えは、傾聴、共感、寛容、感謝です。この4つは、特にエラくなるとできなくなる人が多いので、注意喚起の意味合いを込めて強調しています。
傾聴は、リーダーに求められることとして実に多くの研修参加者が挙げる要素ですが、実際のところ実行できていますでしょうか。他者の話をただ単に「聞く」、というのではなく、注意深く「聴く」という行為は、とてもエネルギーと忍耐が必要です。相手の話を聴いている内に、自分が言いたいことが頭に浮かぶと、もう相手の話を聴いていません。
共感も、上位職位に就くとなかなかできなくなります。いちいち部下や顧客に共感していたら業績目標を達成できないと考えがちで、部下に対してつい命令口調になってしまったり、顧客や取引先に対してゴリ押しや無理な要求をしてしまったりしがちです。
寛容は、寛大と異なります。寛大は、心が広く大きいさまを意味しますが、寛容は、忍耐の意味が含まれます。エラくなると、この忍耐力が減衰してきます。
最後は感謝です。エラくなるということは、何か理由があるはずです。多くの場合は、優れた功績によるものでしょう。優れた功績をあげるということは、他者に比べて優れた人材である可能性が高いことになります。
優れた人材が陥りやすい罠のひとつが、他者に対する要求水準がとても高くなることがあるということです。自分自身が高い水準で業績目標をクリアしてきた人ですと、他者も同様に高い目標をクリアして当たり前という発想に、無意識のうちになってしまいます。そうすると、他者が高い水準の目標をクリアしても、それは当たり前のことであって、いちいち褒めたり感謝したりするものではないと無意識のうちに思ってしまいます。すると、ねぎらいの言葉をかけたり、感謝の言葉を贈ったりすることができません。
兵庫県知事のパワハラ問題が世間を騒がせました。報道内容を知るにつれ、この4つのKができていない典型のように思われます。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざがあります。報道を見ていますと、この4つのKにもうひとつ「謙虚」も加えたくなりました。