討議中心の研修は正しいのか

ここのところ新規のクライアントと研修の事前打ち合わせをしていて、共通して耳にするフレーズがあります。
「弊社の研修はディスカッションを中心にしていまして、講義は必要最低限にしてください」というものです。

一昔前には聞かれなかったフレーズですが、日本の会社も一方的な講義を聞かされるだけでは学びが少ないということに気付いた証かと安心する半面、ある種の危うさを感じざるを得ません。GEクロトンビルでもずっと以前からトレーナーの認定試験に当たってその候補者たちに言い聞かせてきたことは、「教えることはできるだけ少なく、ファシリテーションをできるだけ多く」ということです。

しかし、この注意喚起には背景があります。クロトンビルでは研修コースごとに認定試験がありますが、書類審査を通過した後に当該コースの受講者として研修を受け、その後に実演を中心とした試験が行われます。トレーナーになるには、自分でなりたいからと手を挙げる訳にはいきません。事業部門であれば担当人事やビジネス・リーダーたちの推薦が必要になりますし、クロトンビルのメンバーであれば、上司による推薦や命令が必要です。

すなわち研修のトレーナーになるには、それなりの人材であることが必要となります。そうした人たちは、その研修のトレーナーを務めることになった際、研修内容を教えることはもちろん、自分の経験などからさまざまな事例を用いて概念などの説明ができ、参加者を十分に納得させられるスキルを持っています。知識や経験を十分に蓄えたトレーナーが人前に立つと、どうしても教える(語る)時間が長くなってしまいます。そうならないよう戒めとして、”Less teaching, more facilitation”と言っているのです。

前述した私が抱いている懸念は、討議中心の研修にしている企業では、トレーナーを務めている人たちが、実は語るに足るだけの知識や経験を持っていないから、参加者に討議や演習をさせているのではないかということです。また語るだけの内容を持っている人であっても、参加者の注意関心を長時間引き続けることができるようなプレゼン・スキルがないのではないか、ということも懸念としてあります。

討議や演習中心の研修は、参加者の満足度を上げやすいということも、人材開発担当者からするとそちらの方向に引き寄せられる誘因でしょう。討議や演習を中心とした研修は、もちろん効果があります。しかし、その間に挟む講義や参加者からの質問に対応する回答の質が問われるのは言うまでもありません。世の中のトレンドがあまりにファシリテーション偏重になり、ティーチング・スキルが軽視されていないかと心配になります。

2024年08月19日