スポーツの世界においては、プロ選手とアマチュア選手との間には歴然とした力の差があることがほとんどです。
ちなみにプロとトップ・アマとの差が最も少ないスポーツはゴルフと言われています。
ビジネスの世界でも、経営者が従業員に対して「プロ意識を持て」とか、「〇〇のプロになれ」などと口にします。こういうことを言う人たちは、プロフェッショナルという言葉をどのように解釈しているのでしょうか。
私が日本人材マネジメント協会を設立したとき、アメリカの人材マネジメント協会であるSHRMをはじめ、香港やシンガポールなど主要な国々の協会を訪れてベンチマークをしました。それぞれの国において、人事の仕事をする人たちは「専門職としての人事」としての地位を確立し、その地位にふさわしい知識や技能があることを証明する資格を保有していました。アメリカのバージニア州アレキサンドリアにあるSHRMを訪れたとき、その地域には職能別の専門団体が数多くあることに驚かされたものです。
企業で働く個人がプロとしての能力と誇りを持って作り上げている組織と、何の脈絡もなく辞令によって異動を繰り返す人たちが集まっている組織が同じ土俵で戦ったとき、どちらが強いでしょうか。将来のビジネス・リーダーを育成するためには、様々な部門を異動させて経験や人脈を広げることも大切です。ただその場合も、脈絡なく異動をさせたのでは、成功するキャリアを形成することは難しくなることは明らかです。
組織で働く個人としては、プロとしてのキャリアを描くとき、プロの経営管理職(プロフェッショナル・マネジャー)か、プロの専門職を目指すかということが考えられます。プロとしてどのような業種・業態においても成果を出すことができるレベルには達せず、その企業でのみ通用する場合はエキスパートと呼ばれます。エキスパートほどの経験や実績、能力や知識は持ち合わせていない人がスペシャリストと呼ばれます。
人事・人材開発の世界に限ったことではないのですが、日本企業にプロとして自他共に認める人たちが少ないのはなぜでしょうか。プロである必要性がないからでしょうか。プロに育て上げてしまうと転職されてしまうからでしょうか。プロレベルに育成してしまうと高い報酬を払わなくてはならないからでしょうか。
私が働いていたGEクロトンビルは、組織の上から下まですべて世界で通用するプロばかりが働いていました。GEは毎年、人材育成に1200億円を使っています。人こそがGEにとって最も大切な資産ですから、その育成のためには世界中で最高のプロを雇い、多額のお金を投資して最高の研修所で最高のプログラムを実施しています。
多くの企業が同様に、わが社にとって最も大切な資産は人であると言い、研修所などにはご丁寧に額に入れて貼ってあったりします。しかし肝心の人材開発担当者や責任者が3-4年で異動となり、スペシャリストにもならないうちに、それらのポストはまたアマチュア選手に入れ替わってしまいます。
多くの人が人材開発の仕事に就くことは素晴らしいことですが、この仕事は好き嫌いや向き不向きといった、言わば適性が問われますので、慎重に人選しなくてはいけません。ビジネス環境の変化が激しくなく、また文脈も複雑でなかった時代にはゼネラリストによる組織運営でもなんとかやって行けたのですが、時代は変わりましたし今後はますます想像もできないような変化が待ち受けています。
チーム競技のスポーツに例えるまでもなく、それぞれの役割を最高度に果たすことができる個人が集まり、その個人を束ねて実力をいかんなく発揮させるリーダー(監督やコーチ)がいるチームは強いということになります。日本企業でも経営管理職および各職能において、本物のプロを育成することができない企業は、グローバル競争の土俵にあがることすら許されない未来がすぐそこに来ています。