ぶれない軸にこだわらない

研修をしていますと、よく「ぶれない軸を持ちたい」ということを耳にします。私はそれに対して、「軸にこだわらないほうが良いですよ」と返します。この軸は、確固たる信念や価値観、哲学といったことを例えた比喩表現なのでしょう。ぶれない軸を持ちたいと願う人の多くは、「1本の軸」を持つことにこだわる傾向が見て取れます。そしてこの軸を獲得できたと思った瞬間から、その軸にこだわり続けます。これが危険なことなのです。

軸は何本もあったほうが良いのです。1本しか軸がなかったら、例えば環境や状況、相手が変わったとき、それらに対応できないかもしれません。相手かまわず1本の自分の軸(考え方)に固執すると、それは頑固ということにほかなりません。

何本もの軸を持っていると、他人から「ブレている」とか「信念がない」と思われないかと危惧する人がいます。ブレるというのは、1本の軸がぐらぐらしてしまっている状態を指すのであって、複数の軸があってもブレるということにはなりません。またこの複数の軸は、それぞれ独立して存在しますが、横串が通っていることが望ましいです。しかも複数の横串が通っていればより望ましいです。複数の軸に横串が通っていれば、それは強固な存在となり、揺らぐことはありませんし、他人からもブレているとは見られなくなります。

軸の議論をするときに、私は、「軸よりも先にその軸を立てる土台(基盤)について考えることが大切だ」と強調しています。せっかく確立した軸が砂の上に立てられていては、ちょっとしたことで揺らいでしまいます。そうならないためにもまずは土台をしっかりと固めることです。その土台は、物事の見方や考え方の基礎となる「○○観」になります。例えば、経営観、組織観、歴史観、世界観、人間観、宗教観など多岐にわたります。

こうした自分なりのものの見方や考え方といった基盤ができないまま、軸を持とうとしてもムダです。自分なりの哲学や信念は、軸として考えるのではなく土台として考え、その土台の上に複数の軸を立て、横串で通す。この考え方では、軸は哲学や信念ではなく、スキルや知識になります。そして横串は、例えばリーダーシップやマネジメントになります。

2024年09月16日