ダニエル・カーネマンの『Thinking, Fast and Slow』という本があります。2012年の出版当初、GEクロトンビルの同僚が読んでいて「とても面白いよ」と勧めてくれたのがきっかけで読んでみました。
彼の論文は、その本の出版以前にダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビューで読んだことがありましたが、
人の意思決定と「バイアス」についてこれでもかというほど書かれていたのが印象的でした。
当時はGEで働いていましたので、「人と組織はなぜ変われないのか」や「なすべきことは分かっているのになぜ実行しないのか」という問題は、自分の問題としてはヒットせず、他社からのご相談を受ける際に聞くような問題として認識していました。
何しろGEは、人も組織もどんどん変わりますし(進化という意味で=笑=)、なすべきことが分かっているのに実行しなかったら、ちょっと大変なことになりますし(汗)。
ところが独立して日本企業が抱える悩み事などのお話を深く聞くようになりますと、だいたいこのふたつが暗い闇のように企業組織とそこで働く人たちの心を覆っているなと感じることがしばしばとなりました。
GEで働いていた頃はたまに講演の依頼があって、そのひとつに「なぜGEは戦略の実行力が高いのか、その理由を話してほしい」というものがありました。そのときは2011年で、まだカーネマンの本が出版されていませんでしたから、講演ではバイアスについて触れることなく、「人と文化とメカニズム」の3つの切り口から講演をしました。
独立して以降は、研修においては前述の2つ問題について、「バイアス」が大きな原因となっていることをカーネマンのプロスペクト理論や、脳科学の研究から得られた知見を加えて話すようにしています。とくに最近多くリクエストを受ける「マインドフルネス」についての研修や講演では、単に瞑想しましょうとか五感を使って食べましょうというだけではとても怪しげですので(笑)、
このバイアスをぬぐい捨てて目の前の物事や人に向き合うことのコツを科学的に説明しますと、
皆さんとてもよく理解して実践に移していただけているようです。