最近、「職業としての人材開発」というテーマが頭から離れません。過去35年間のビジネス人生において、数多くの研修ベンダーや人材開発担当の実務家と知り合いましたが、人材開発という仕事を純粋に愛し、楽しみながら実践している人は、残念なことにあまり多くありません。
与えられた仕事だから仕方なく人材開発の仕事をしている人(諦めの勤労観)や、懲罰的人事異動で研修子会社に追いやられ、不幸な我が身を嘆くばかりの人(呪いの勤労観)も少なくありません。人材開発のプロになろうという志が元々なく、たまたま人材開発という仕事を与えられ、その素晴らしさに引き付けられてプロになった人ももちろん知っています。
諦めの勤労観や呪いの勤労観を持ちながら働いている人たち以上に、私が最も警戒し、遠ざかるようにしている人は、金儲けのために人材開発をしている人たちです。例えば、研修ベンダーの中にも顧客企業の組織力や人材の質を高めるために真剣に取り組んでいる会社があるかと思えば、どんな仕事でもダボハゼのように食いつき、仕事は取ってくるが研修の結果が思わしくないという会社があります。
後者のような会社は顧客から愛想を尽かされて淘汰されていくだろうと思うかもしれませんが、そうした会社の営業は、素人同然の人材開発の実務家(諦めや呪いの勤労観で働いている人)に取り入るのがとても上手なのです。金儲け優先主義のベンダーは、素人の実務家をコロッと騙して適当な研修をして一丁上がりです。いやいや、そんなベンダーが行う研修だったら参加者の評価が悪くて取引ができなくなるのではないか、という声が聞こえてきますが、実はこれも簡単にクリアできます。
そもそも素人のような人材開発担当者をその任に当たらせているような会社では、まともな研修は行われていません。従って参加者の研修に対する期待値は低く、研修は実務に役立たない「無駄なこと」、あるいは多忙な仕事から解き放たれる「つかの間の休息」といった程度にしか考えていません。
金儲け主義ベンダーの講師は、こうした会社の研修参加者にとってハードルの低い、つまり難易度の低い毒にも薬にもならない研修をして、参加者の満足度を上げる術(すべ)を熟知しています。こうした講師が行う講義に対する鑑識眼を持たない素人の人材開発担当者は、参加者のアンケートに表れた数字のみをもって上司に報告をして一丁上がりとなります。もちろん自分では報告書を作成することはできませんから、ベンダーの営業担当に依頼します。
ところがその研修の場に同席したベンダーの営業担当は、研修のオブザーバー席で講師の話や参加者の様子をチェックするのではなく、必死でメールと格闘するか居眠りをしているかのどちらかです。また頻繁に離席して顧客からの電話に応対します。ですから自分で報告書を書けません。結果、講師に対して講師所感を書いてほしいとリクエストすることになります。では、こうしたベンダーの得意技は何かと言えば、素人人材開発担当者への接待攻勢です。
長年にわたり、人材開発の実務家として、およびベンダーとして歩んできたキャリアを持つ者の責任として、職業として人材開発に携わる人に求められるプロフェッショナリズムと倫理観の問題に対して、何か発信しなくてはならないという思いが強まる日々です。