プログラム・マネジャーとして、2週間連続の研修をどのように企画・運営するのか。私は大いに悩みました。1週目と2週目の2つの開催国を決めるだけでも大変です。1週目は講義や演習などを中心としたセッションが多くありますが、2週目は開催国におけるGEの事業をどのように成長させたら良いかというアクション・ラーニングを行います。
そのアクション・ラーニングのテーマ設定だけでもとても大変な作業でした。開催国におけるGEのトップと直接交渉を行い、サポートの了解を得て、テーマを決めます。当該国のGEトップに依頼して、サポート要員をアサインしてもらい、彼らとの打合せをするということから、訪問企業の選定やアレンジ、最終発表まで各チームへのコーチングを行うということも行います。
こうした運営面で、講師と事務局を演じ分けねばならないということについて、初めての経験であるがゆえに悩みはつきませんでした。このプログラムの責任者としてGEに入った初年度は、事務局、講師、コーチといった複数の役割があることを実感しましたが、それらの役割を「並列」に捉えていて、状況や場面ごとに使い分けていたように思います。それはあたかも演劇の「一人芝居」のようで、1人の私が複数の人物を演じ分けているような感覚がありました。
ですがそうしたことをしていると、自分の中でチグハグ感が出てきて、どの役割もうまくいっていないように感じました。そのとき、上司から言われたアドバイスを思い出しました。このプログラムは、その上司から引き継いだのですが、その時に言われたのが、「プログラム・マネジャーは『司教』(Bishop)としての能力が必要だ」ということです。司教は、神父などの司祭が管轄する教会をまとめた単位である教区を監督する聖務者です。事務局や講師、コーチといった役割は、それぞれ司祭と考えることができます。それらを統括する立場が司教になるわけです。
自分の役割を「並列」に捉えて、演じ分けるとチグハグ感が出てしまうわけですが、そうではなくて、まず司教としての自分を確立すること。そしてその自分が内包するキャラクターとして事務局や講師、コーチという役割を発動させることが大切だと気づきました。そう考えることによって、それぞれの役割を演じるときにも根底部分に統一感が出て、自分らしさを生かしたプログラム・マネジャーとして役割を果たすことができました。この考え方は、オーケストラの指揮者やレストランのメートル・ド・テルの役割に近いかもしれません。
研修や人材開発のプロを目指すのであれば、「事務局は裏方のサポート役」という固定概念にとらわれることなく、プログラム・マネジャーとして多様な能力を保有することを目指してほしいものです。