数年前、とある研修ベンダーが主催するセミナーに参加しました。いつも研修や講演では話す側になりますので、時々聞く側になってコンテンツからはもちろん、話し方や振る舞いなども学ぼうというねらいです。
その日の講師は、ある著名な会計系コンサルティング会社の元CEOでした。セミナーの案内に書かれているテーマやアジェンダは、とても興味深いものでした。楽しみにして会場に到着すると、用意された座席数はわずか8席。「長距離路線の飛行機のファースト・クラスか」と思わずツッコんでしまいました。参加費は、日本の航空会社のファースト・トクラス並みではもちろんなくて、わずか1万円。
嫌な予感がしましたが、その予感は的中し、講師は用意されたスライドを読んでいるだけ。しかもスライドのほとんどは、いくつかの本からの抜粋やコピーという有様。そのテキストも、考えようによってはこちらが読んだことのない本のサマリー資料集となるかもしれないと自分に言い聞かせました。
しかし講師は着席したまま淡々とスライドを読み続けるばかりです。研修の受講者としては人生で一度も寝たことがない私を、心地よい眠りに誘ってくれました。資料が手元にあるのであれば、この先ここに居続けても時間の無駄であると判断し、休憩時間に途中で失礼しました。
その会場から次の目的地に向かって歩いている途中、1人で反省会を行ってみました。果たして自分はあんなつまらない話をしてはいないだろうかと。たとえ講演であっても参加者とインタラクティブなやり取りをしながら話を進めること、スライドに文字を書きすぎないこと、座ったまま話さないこと等々、人前で話す者としての基本を確認する機会となりました。
本当にその講師はプレゼン・スキルについて恐ろしいほどに低く、悪い例としてビデオ撮影したくなるほどでした。私は自らの戒めとして良い機会を得られたことに感謝しつつ、大学の授業を行うため上智に向かいました。教室で私のゼミの学生にその日の出来事を話し、私の授業がつまらなかったらすぐに指摘してほしいとお願いしました。
そのコンサルティング会社の元CEOは、あの話しぶりではきっと前の会社では「裸の王様」だったのだろうと思ったからです。私は自分が裸の王様になってしまうことほど恐ろしいことはないのです。