開講の挨拶に見る社風

いろいろな会社にお邪魔して研修をしていますと、そのオープニングにその会社の人材育成に関する特徴の一端を感じることができます。事務局である人事・人材開発の方が参加者に対して、第一声とともにどのような挨拶やオリエンテーションをするのか、私はいつも注意深く観察しています。

私の経験では約8割の方が、「おはようございます」といった挨拶に続けて、「本日はお忙しい中、研修にお越しいただきありがとうございます」というような言葉を続けます。「仕事から離れて研修なんかに来てもらって申し訳ない」という気持ちが、その根底にあるのではないでしょうか。私が気にしすぎなのかもしれませんが、言葉は心理を反映しますので、あながち外れていないのではないかと思います。

一方、数少ないのですが、例えば選抜研修を中心的に行っている会社、私がいたGEもそうですが、そうした会社ではそのような挨拶は絶対にしません。研修に参加できることが名誉であり、参加者が研修を楽しみにしてくるような会社では、事務局の第一声は、「おはようございます」に続いて「ようこそ〇〇研修にいらっしゃいました。そしておめでとうございます」という言葉が続きます。

階層別の必修研修ですと、参加者にしてみれば「仕方なく」参加している感じが大半を占め、開講前からそうした雰囲気が教室に漂っています。例えば参加者同士挨拶もせず、一心不乱にPCに向かってメールに没頭しているとか。。。それを事務局の人は察して、あるいは無意識に「お忙しいところすみません」という挨拶になってしまうのではないでしょうか。

中には必修研修であっても、前向きな態度で研修に臨む参加者が多い会社もあります。仮に事務局が「お忙しいところ研修なんかに呼び立ててすみません」といった挨拶をしたとしても、それに対して心の中で「本当だよ、まったくいい迷惑だ」などとは思っていないでしょう。

人事・人材開発のスタッフの参加者に対する態度で、一番いけないのは「お客様扱い」することです。
1人の人間として、あるいは同じ会社で働く仲間として敬意を払うことは当然ですが、甘やかしたりへりくだりすぎたりするのは間違っています。人事の権威を笠に着て偉そうにする必要ももちろんありませんし、してはいけないことです。

事務局の挨拶やオリエンテーションは、参加者が注意して聞いていないようで、実はよく聞いています。
むしろ最初の5分から10分程度のオリエンテーションが研修のトーンを決めてしまうと考えた方が良いでしょう。
私がGEクロトンビルで教えていたときは、少なくとも30分から40分程度の時間を使って研修のトーンを設定していました。同僚の中には1時間程度時間を使う人もいました。

いわゆるプレゼンテーションにおいては、最初の1分間を「黄金の1分間」と言い、この1分において参加者の関心を引きつけられるかどうかが勝負になります。それを考えれば、何日間かの研修という時間の長さを考えるなら、そのトーンを決めるために何分くらい使うべきかは自ずと分かるはずです。

単なる事務連絡だけでよいのか。
講師任せにして研修の趣旨や位置付け、狙いなどについて自らの言葉で何も語らないで良いのか。
もう少しスタート時の大事な時間について考えた方が良いなと思う会社が多いのは残念なことです。

2024年07月20日