1980年代初頭、私が大学生だったときにアメリカ西海岸を旅しました。
成田空港の出発から大変なトラブルに見舞われたのですが、その話はまたの機会として。
サンフランシスコのホテルでテレビを見ていた時のことです。それは「That's Incredible」というテレビショーでした。視聴者たちがひな壇にたくさん座っているスタジオに、髪の毛がボサボサで、ひげ面、虎の毛皮を肩から斜めがけして、こん棒を持った東洋人とおぼしき男性が入ってきました。まさに原始人という感じでした。
すると司会者が大声でこう言いました。
「He eats raw fish!!!」。するとスタジオにいた観客は声をそろえて「That's Incredible!!!」。
そうです、われわれ日本人が生の魚(刺身や寿司)を食べることを揶揄していたわけです。
つまり生の魚を食べる日本人は原始人並みに野蛮なんだと。
あれから30年!!(綾小路きみまろ風に)。時代は変わりました。某年の正月に、元GEクロトンビルの同僚(イギリス人)が奥さんと一緒に日本に来るというので、1日ガイドを買って出ました。
2人が泊まるホテルに迎えに行き、何がしたいかどこに行きたいかを聞きました。寿司、刺身、天ぷら、すき焼き。そんなリクエストではありません。本物のラーメンと餃子が食べたいと言うのです。
行きたいという場所も渋すぎる選択。初来日に向けてかなり勉強してきたなと感じさせました。そこで私はふと我が身を振り返りました。自分は仕事でいろいろな国に行ったが、事前に彼のようにリサーチをしなかったなと。
忙しさにかまけて、研修が終わったらホテルに戻り、すぐにルームサービスを頼み、むしゃむしゃ食べながら電話会議に参加し、それが終わったら翌日教える内容の確認。あっという間に1時、2時。訪れる場所はホテルと研修会場と空港。ホテルで研修をする場合はホテルと空港の単純往復のみ。移動はエレベーターで上下の移動のみというありさま。
たまに現地のクロトンビルの同僚に誘われてその国のものを食べたりもしましたが、正直、あまり美味しいと思うものには出会いませんでした。ですが振り返ってみますと、実は美味しいものであっても私の心がその現地の食べ物に対して偏見を持っていたせいで、せっかくの食べ物も美味しく感じなかったのではないかと反省しています。
それこそThat's Incredibleの番組で、魚を生で食べるなんて、とんでもない奴らだ、と言っていたアメリカ人と同様に、私は現地の食べ物に対して心理的なバリアーを築いていたのではないかと思います。
この、自分にとって親しみのない物事に対する心理的なバリアーを低くする、あるいはなくすことが、グローバル人材たるための第一ステップだと考えています。