私が実施する3日間のリーダーシップ研修では、最終日に参加者による相互フィードバックを行うようにしています。実際にフィードバックを開始する前に、フィードバックについてのミニ講義を行います。フィードバックを与える、あるいはもらうときのポイントを説明するのですが、もらうときの注意点のひとつとして、「他者からフィードバックをもらったとき、その指摘に対してコミットすることをその場で約束してはいけません」と教えます。
すると受講者の顔の表情に「?」マークが浮かびます。私は続けて、「他者からもらうフィードバックは、必ずしも正解とは限らないのです」と言うと、納得した表情に変わります。他者からもらったフィードバックを実行に移すかどうかについては、あなた自身が留保する権利を持っているのです。相手に対しては単に『ありがとうございます』と言ってください」と言うとともに、「フィードバックに対する言い訳をしてはいけません」と結びます。
GEで教えていたときには、年間1,000人以上の参加者から研修のフィードバックをもらっていました。フィードバックにもお国柄というか国民性が出て、毎回記述式のコメントを読むのを楽しみにしていました。独立して日本企業をメーンに教えるようになりその研修フィードバックを見ると、会社の風土、あるいは特質のようなものが見えてきて、その会社ごとの違いを楽しんでいます。
研修参加者からいろいろなコメントをもらいますが、どんなに自分を謙虚にして考えても、「これは何だかなぁ」という変なコメントが5%程度はあります。どんなに注意して採用しても5%は間違った人材を採用してしまう。昇進させた管理職の5%は失敗だった。そんな5%の誤謬というようなものがあるように、人のコメントにもその程度の誤りはあるようです。
参加者が講師の話を本当に「評価できるのか」という考え方もあります。知識や経験レベルに圧倒的な違いがある場合、講師の話していることの本質を理解できるのでしょうか。おそらくその答えは、そのレベルの違いを乗り越えて、参加者に理解できるように研修をすべき、ということなのかもしれません。
私の経験から、参加者全員に理解してもらえるように研修を行うと、決して良い結果にはなりません。かと言って、割り切って特定の層だけに焦点を当てて教えても同様にうまくいきません。では一体どうしたらよいのでしょうか。フィードバックの「呪縛」にとらわれると、この問いから抜け出せなくなります。
先日、クライアントである大病院の院長先生と、同病院の幹部研修についての打ち合わせをしました。病院のミッションやビジョンの話から展開し、目指す姿として顧客(患者)満足度ナンバーワンを目指したいという話になりました。その院長先生は、患者の中でも近隣の開業医さんたちが、その病院をかかりつけにしてくれているという話をしてくれました。プロ(開業医)に頼られる病院ということです。
鑑識眼のある人から評価されることの大切さというかうれしさというか、その話を伺っていて私の仕事にも通じるところがあると感じた次第です。私の仕事は、研修の参加者と、事務局をしている人材開発のスタッフという2種類の顧客がいます。どちらに評価されるとうれしいでしょう。人材開発のスタッフといえども、参加者以上に素人に近い人もいますし、参加者といえども素晴らしい鑑識眼を持った人もいます。
プロに評価されるプロ。どうしたらそうした仕組みや機会をつくることができるのでしょうか。