天使と悪魔

天使と悪魔といっても、トム・ハンクス主演の映画の話ではありません。フィリップ・ジンバルドーの『ルシファー・エフェクト』を読んでから、私の頭の中で天使と悪魔の会話が顕在化してきました。えっ? 精神的に大丈夫かって? うーん、わかりません(笑)。『なぜ人と組織は変われないのか』の次に読んだためか、同書の「免疫マップ」に輪をかけたように、人の心の奥底に潜む"邪悪"な本性と向き合うことの大切さを痛感しています。

『ルシファー・エフェクト』は、個人の気質によって善良な人が悪いことを行うというより、システムが状況を生み出し、その状況が場の空気をつくり個人の力を押しつぶして悪行に走るということを見事に描き出しています。もちろん個人が悪いということもありますが、全てが個人の気質のせいにはできないという知見は、とても役に立ちます。

私は強い企業の3要件として「人と文化とメカニズム」という考えを持っています。このメカニズムや文化が負の作用をもたらすと、どんなに優秀な人材であっても悪事に手を染めるということは、最近の大企業の不祥事が物語っています。私が幹部向けの研修で、個人、他者、チーム、組織という4つのテーマをカリキュラム構成の柱にしている理由もここにあります。

組織についての議論では、単に構造にとどまらず風土や文化、それらを形成する価値観といった目に見えないけれど厳然として存在するものを可視化する必要があります。組織構造、風土、文化が個人やチームに与える影響については、長年にわたって日本企業における研修トピックとしては、軽視されてきたのではないでしょうか。組織能力とは何かといった基本的な議論さえあまりなされていないように思います。

組織の規模にかかわらず、組織のリーダーとしてあるいは管理職として、組織が持つ正のパワーと負のパワーをしっかりと認識しそれをコントロールするノウハウを知らないと、「善人」を「悪魔」にいとも簡単に変えてしまうかもしれません。また研修の最後に参加者が作成する「行動計画書」に書く文言も、その実行を阻害しようとする心の中に潜む「悪魔」と事前によく議論しておく必要があります。

自分の心の中には天使しかいないといえる人はいないと思います。人はこの天使と悪魔との議論を回避してしまうがために、あるいは「悪魔」の存在を意識していないがゆえに、行動計画で記述した目標が達成されないのではないかと思います。

これは何も研修だけに限らず、ダイエット目標の達成をはじめ多くのことに当てはまると思います。自分にささやきかけている悪魔の声が聞こえているのに聞こえないふりをしたり、その存在を否定したりすることはやめて、じっくりと議論してみてはいかがでしょうか。結構、良い関係を築くことができますよ。

2024年06月15日