6月3日の投稿に対して、マニアックな弊ブログ読者(マニアックな人しか読んでいないと思いますが=笑=)から、
最高の研修を構成する要因を因数分解によって導いてみたというメールが来ました。ほんの数人でも読者がいて
くださるということは心強いことです。
前の投稿でも書きましたように、「最高の研修」をどのように定義するかによって構成要因は変わると思いますが、定義のいかんにかかわらずある程度の共通要因はあるように思います。私の個人的な経験ですが、この30年間を振り返り、私の記憶に深く刻み込まれていてこれからおそらく死ぬまで忘れないだろうと思われる最高の研修は、2つあります。
ひとつは研修の企画運営責任者およびメーン講師として、もうひとつは参加者としてです。前者は、GEの経営幹部を対象とした2週間連続の研修で、後者はGEの幹部向けの3週間連続の研修です。脳のメカニズムから考えても、長期の研修は深く記憶に残りますし、その間にはいろいろなことが起こりますから思い出深いものになるのも当然かもしれません。話がそれますが、最高に苦労した研修というのは、これらとは別にあります。
さて、こうした経験を踏まえて、私が考える最高の研修を実現するために必要な要因(要件)をつらつらと考えますと、①プログラム企画②現場の運営・演出(キュレーション)③コンテンツ④講師⑤参加者⑥参加者の職場の人たちのサポートなどが考えられます。詳しくは5冊目の拙著『クロトンビル』をご参照ください。
これらの要因の掛け算の結果が研修の出来不出来を決めているように思います。
バブル崩壊後、この20年間でとても気になることは、研修会場選びに無頓着な人材開発の人が増えてきているということです。会場選びは上記の要因でいいますと、広い意味で「プログラム企画」に含まれると思います。よくある悪い例。「選抜研修」だぞ、と参加者にアピールしておきながら、実際に開催する研修施設はとてもショボい研修専用の施設だったり、ギフト(日本の企業ではほんとどありません)も用意されていなかったり、全くと言って良いほど特別感がないのです。GEのリーダーシップ研修は選抜研修のみですから、特別感の演出にとても神経を使いました。私は特に「選ばれし者の責任」(Noblesse
oblige)について語るとともに、特別な「おもてなし」を演出することに注力しました。もちろんギフトは、会社によるその選抜者に対する「認知」(Recognition)の象徴ですから、良いものをたくさんそろえました。
いろいろな会社の選抜研修に携わってきましたが、とても中途半端な演出や演出効果ゼロという会社が多く、参加者に「選抜された者としての覚悟」を植え付けることができずにいます。そうした研修の参加者にしても、この研修は他の研修とどこが違うのだろうと不思議に思うでしょう。前に受講した課長研修と同じ会場で、同じような内容の話。顔ぶれも変わらない。これって名前だけの選抜だよね、ということになってしまいます。最高の研修を作るためには、参加者のレベル合わせも大切なポイントです。おそらく研修効果の6~7割は、この参加者のレベルを合わせられるかどうかにかかってくると思います。
有象無象あるいは烏合の衆が雑多に集まっていては、最高の研修を構成する他の要因を全てそろえても、その効果はほとんどゼロに近いでしょう。それ以上に、本当に優れた参加者までやる気を失うことを考えれば、その効果はゼロどころかマイナスになるでしょう。そうした意味からも日本企業が中心的に行ってきた「底上げ教育」だけではなく、飛び抜けた人材というレベル合わせをして参加者を集めた、いわゆる「エリート教育」が必要だと思います。「エリート教育」に対する日本企業のアレルギー感は「理解」できます。しかし「納得」はできません。
飛び抜けた人材をさらに強化する第一の方法は、自分よりすごい奴がいると実感させることです。逆に、飛び抜けた人材に対してそうした気付きを与えないと、自分に満足して成長が止まるか後退する、あるいは自分よりすごい奴がいそうな会社に転職してしまいます。あなたの会社にいるボトム20%の人が満足感を覚えることと引き替えに、トップ20%の人材が会社から抜ける、あるいは不満足を覚えてやる気をなくすとしたらどうでしょう。こうしたことを考えても「エリート教育」は必要です。
飛び抜けた人材は、困難を乗り越えたときのドーパミン放出による脳内の快感を知ってしまっています。彼ら/彼女らはより強い刺激を受けないと、より多くのドーパミンが出ません。どのような刺激を与えれば、参加者のニーズを満たし、脳内において快感を与えることができるのか、しっかりと考えてプログラムを作ってもらいたいものです。