昔から私は、自分のことを「器の小さい人間」であるという自覚がありました。細かいことが気になったり、他人から見れば小さな事でくよくよしたり。この前も自動販売機で飲み物を買うためにコインを投入口に入れようとしたら10円玉を落としてしまい、コロコロと自販機の下に入ってしまったときも、なんとか取れないものかと道路に膝をついて探そうとしました。
またあるときは、買い物をしてレジでおつりをもらったのですが、家に戻っておつりを確認したら100円玉であるべきなのになんと50円玉だったのです。つまり50円損をしたことになります。これはもう何年も前の出来事ですが、いまだにそのときのことを思い出すと軽く(笑)怒りがこみ上げてきます。私は、10円や50円の損失にくよくよしたり怒ったりするようなつまらない人間なのです。
そんな自分が嫌だったのですが、救いの手を差し伸べてくれたのが、以前のブログ(「バイアスに凝っています」)にも書いたダニエル・カーネマンです。彼の「損失回避性」という考え方は、人は何かを得るときよりも何かを失う方に強く反応するというものです。確かに儲け話よりも損をする話のときの方が敏感ですよね。世の中にある罰金制度などはその典型的な活用例でしょう。
例えば制限速度を守って走っていてもご褒美の賞金はもらえませんが、スピード違反で捕まったら罰金を払うことになるからスピードを出さないように運転するという行為が生まれます。もちろんスピードを出すことは危険ですから、罰金以上のリスクを伴いますが。
正しいことをしていて賞金をもらうことよりも、罰金としてお金を支払うことの方に強く反応するというメカニズムは、100万円をどうやって儲けるかということより、100万円の節税をどうやってするかということに敏感になる零細企業の経営者と同じですね(笑)。
私が経験した、「10円をもらった時の喜びよりも、10円を失ったときのショックの方が大きい」ということが、
彼の理論のお陰で正当化され私は救われたのです(セコイ)。
さて、このことをリーダーシップ研修や組織変革プロジェクトにおいても適用してお話しすることが最近増えました。人や組織が変化(変革)するときには、何かを得る代わりに何かを捨てなくてはなりません。リーダーは、その両方をきちんとメンバーに伝えることも役割のひとつです。
しかしカーネマンの理論を援用するなら、得ることと捨てることの絶対量や客観的に見積もった価値などが同等であっても、捨てることの方にメンバーは敏感になるということになります。このように考えると、リーダーとして何をしなくてはならないかということが見えてきます。
それにしても、自販機の下に入り込んだ10円玉はどうなったのかなぁ(涙)