私は人混みが嫌いで、行列に並ぶことも嫌いです。ですのでゴールデンウイークは家にいて、のんびり過ごすことが10年くらい前までの慣例でした。10年以上前に一度ゴールデンウイークの最中、妻の実家に家族で帰省しましたが、大変な渋滞でへとへとになりました。その経験によってゴールデンウイークは家で過ごすということになったのだと思います。
GEに入ってからは、ゴールデンウイークそのものが意味をなさなくなりました。日本では連休ですから研修を開催できません。しかし、海外はこの日本のゴールデンウイークは関係ありません。私の予定が空いているのを海外の同僚が知ると、うちの国で研修してくれという依頼が来ます。飛行機が混んでいるのは嫌だなと思いながらも、ノーと言えない日本人でしたから承諾します。
空港が海外に遊びに行く人たちでごった返す中、ビジネス用のキャリーバッグを引っ張りながら、自分は何しているのだろうとよく思ったものです。家族からは自分だけ海外旅行かよと責められ、行楽客で満タンの機内でパソコンと格闘する自分。なんともやるせない気分になったものです。ワークライフ・バランスが取れてないなぁなんて落ち込みました。
ですが仕事そのものはとても好きでしたし、365日毎日18時間働いても苦痛ではありませんでした。こんな生活を続けていますと、祝日やちょっとした連休は海外で教えるというスケジュールが恒例化していき、日本の土日祝日に家で休みを取れる日はほぼ半分以下になりました。
するとある考えが大きくなってきました。それはワークライフ・インテグレーションという考え方です。日本人は働きすぎですので、ワークライフ・バランスという考え方で良いと思うのですが、私にとっては「バランス」という言葉が引っかかるようになりました。
バランスはてんびんの振り子のように、ワークとライフを均衡させようというふうに受け取れます。しかし、それは一方でトレードオフであるとも受け取れます。つまりワークとライフはどちらかが多すぎると片方は少なくなるということです。
働きすぎの人に対しては、もっと私生活についても時間を割くようにという警鐘を鳴らすためのかけ声としては良いと思います。しかし世界で活躍している人たちは、仕事と私生活が融合というか統合というか、あまりそのバランスについてこだわりなく人生を送っているように見えたのです。
仕事が趣味で、趣味が仕事。どこかのレコード会社の社長が得意なフレーズみたいですが(笑)、そんな状態になりました。かといって見境なく仕事ばかりしているわけでもなく、むしろオンとオフの切り替えがはっきり付くようになりました。
するとある商品が、当時の自分の姿を象徴するものとして頭に浮かびました。歯磨きペーストの「アクアフレッシュ」です。おお、これぞワークライフ・インテグレーションだと、われながら感心したりして。アクアフレッシュはご存じの通り、赤白青のペーストがはっきりと色分けされているのに混ざり合っていない状態でチューブから出てきます。そしてその3色のペーストが混ざり合うことで歯磨きのための効果を発揮します。仕事とプライベートの区別は付けつつ、完全分離しているわけでもない。それぞれが相乗効果をもたらす。
後に、ビル・ジョージの著作『True North』を読むことになるのですが、彼も本物のリーダーになるためのステップのひとつとしてインテグレーテッド・ライフということを言っていることを発見しました。人生のすべての側面を統合し、充実感を感じられるようにするためにはどうしたらよいか、という問いを発しています。