キヤノン御手洗氏の教え

キヤノンの会長兼社長CEOである御手洗氏は80年代前半、同社のアメリカ現地法人の社長を務めていました。

そのとき私の知人が社長室長として、御手洗氏の秘書役的な仕事をしていました。彼から御手洗氏に関するいろいろなエピソードを聞きましたが、私の胸に深く刻まれている話をご紹介します。

あるとき、日本からやってきたゲストを空港まで見送るように御手洗氏から命じられた彼は、空港までゲストを送り届け、社に戻りました。そして御手洗氏に、ゲストを空港まで送り届けてきたことを報告しました。

すると御手洗氏は、「ゲストが乗った飛行機が飛び立つのを見届けてきたのか」と彼に聞いたというのです。

もしあなたが上司から、「ゲストを空港に送り届けてくれ」と命じられたら、どこまでしますか? 空港ビルの出発ロビー入り口前まで車で送る。チェックインカウンターまで一緒に行って、チェックインの手伝いをする。セキュリティーチェックの入り口まで見送る。

いかがでしょうか? 車で送ったのであれば、出発ロビー入り口で荷物を下ろして「お気を付けてお帰りください」などと挨拶をして分かれるというのが普通ではないでしょうか?

ところが御手洗氏の問いは違っていました。飛行機が飛び立つのを見届けたのか、というものだったのです。

私の知人は、正直に「いえ」と答えたところ、御手洗氏は、「見送りの仕事は、飛行機が予定通り飛ばなかったときにこそ、その役割を発揮するものだ」と叱られたそうです。

確かに言われてみれば、その通りですね。出発ロビー入り口で別れてしまったのでは、搭乗予定の飛行機が予定通り出発するのかどうかもわかりません。

御手洗氏は、見送られる側のニーズに着目して、見送りの仕事に求められる役割を考えていたのでしょう。まさに顧客中心の考え方ですね。

また、あるとき、私の知人が御手洗氏に呼ばれ、現地法人で働くアメリカ人社員の奥様の誕生日だから、花を届けてくれと依頼されたそうです。

花屋への注文を完了した知人は、御手洗氏に花の手配が完了したことを報告しました。するとまたもや厳しい質問が返ってきました。「君は、その注文した花が奥さんのところに届いたのを確認したのか」と。

仕事は何をもって完了とすべきなのか、考えさせられるエピソードでした。

2025年09月07日